流派による作法の違い-席入りの足

先日の

流派による作法の違い-客の手の重ね方

では、正座の時の手の重ね方について触れましたが、
今回は茶席に入る際、どちらの足から入るかというお話です。

これまた、流派によって違いがあるようです。

武者小路千家では、茶席に入る時は柱付の足から、出る時は特に決められていない。
表千家は、茶席に入る時は左足から、出る時は右手から。
裏千家は、茶席に入る時は右足から、出るときは左足から。

武者小路千家で柱側の足から入るのは、
正客に対して身体が正面を向くように入るため、と聞きます。
そのため、茶席の造りによって左から入るか右から入るかが変わってきます。
確かに亭主が茶道口から入席する際に柱付の足から入席すると、一歩目で正客の方を向くことになりますし、
建水など格の低い道具を持っている左手を客から遠ざけ、
棗など格の高い道具を持っている右手を客に近づけることになります。
とても納得のいく理由です。

私はこの理由を聞くまでは、勝手に建具(襖)を傷めないためだと想像していました。
柱に足をぶつけたとしても、自分が痛いだけですが、襖に足をぶつけると襖が壊れてしまいますから。
おそらく、畳の縁や敷居を踏んではいけない理由の一つとして、建物や建具を大切に扱うという意味もあることから、そう考えたのだと思います。
実際に足をぶつけている人など見たことないのですが・・・。

話は戻りまして、入席の足は決められているのに、なぜ退席の際にどちらの足から出るかが決められていないのか。
この理由については聞いたことがありませんが、
入席の時ほど強い動機がないといったことなのでしょうか。
入席の理由を裏返せば、退席の際も柱付の足から出た方が良さそうですが、
退席直前で歩幅を調整したりして不自然な動きになるよりは、気にせず自然に出た方が良いということかもしれません。
もっとも、この道に長じたお茶人であれば、歩幅の調整など意識しなくても意図する足から退席できるのかもしれませんが。

難しい理由はありますが、そのようなことを考えなかったとしても、
柱付の足から入れば、どちらの方向に進むにしても自然で美しい足さばきになるように思います。
特に茶道口から入ってすぐに左や右に曲がって点前座まで進む茶席では、柱付の足から入った方が自然な気がします。

一方、表千家および裏千家において入退席の足が決まっていることには諸説あるようです。

陰陽五行の考え方に基づいていて、
客座を陽、水屋を陰として、
表千家では陰の足(左)から入ることでバランスを取っており、
裏千家では陽の足(右)から入ることで華やかさを強調しているとか。
陰陽道では左が陽で右が陰とのことですので、ここでの左右は「客から見て」ということのようです。

その他にも、禅宗では坐禅堂に入る際、左足から入るからとか、
表千家七代如心斎が家元制度を確立する際、弟である裏千家八代一燈宗室に、
「表千家と同じことはしてはならない」と定めたため表千家と裏千家では足が逆になった、
というものもあるようです。

禅宗については、もっともらしい気もしますが、表千家との差別化で云々というのはどうなのでしょうか。
差別化が理由であれば、入退席の足だけでなく他の所作もすべて逆になる気がしますが。
陰陽五行については、当時の人たちの生活にどれほど根ざしていたものか、現代を生きる我々には想像し難いのですが、すべての物事を陰陽五行に分類して見ていたとすれば、そこから外れた所作や物の配置は落ち着かないものだったのでしょう。

手の重ね方の時と同様、説が多すぎてよく解らなくなってきます。
特に左右の問題というのは亭主側から見るか客側から見るかによって変わってきますし、
左右の考え方も陰陽道、仏教、神道などで異なりますので、よけい複雑です。

想像を含めて書き散らしましたが、
間違いがありましたら、ご指摘いただけると助かります。

(NHK水曜 F.M. 記)



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