流派による作法の違い-略盆点前その4

先日の

流派による作法の違い-略盆点前その3

の続きです。

道具を清めていきます。

三千家盆点前

まず、茶器と茶杓を清めます。

1.
(武者小路千家) 茶器を盆の上、手前端に移動させ、続いて茶碗を盆の中心に移動させる。

三千家盆点前

武者小路千家だけ茶碗と茶器を移動させます。
これは薄茶点前で水指の前に置き合わせてある茶碗と茶器を膝前に移動させる所作に当たると思いますが、この所作を盆の上に取り込むことは難しかったのでしょう。
薄茶点前では、まず茶碗を移動させ、続いて茶器を茶碗の手前に移動させますが、武者小路千家ではこの順序を逆転させ、茶器、茶碗の順で移動させます。
このような妥協をしつつも最終的な配置は薄茶点前と同形になるように考えられているように思います。
一方、表千家と裏千家では、この所作を省略して、直ちに茶器を清めるのですが、この時の茶碗と茶器の配置が薄茶点前と異なるという点がまた難しいところです。
裏千家で茶碗と茶器の配置を逆転させた、茶碗を手前、茶器をその向こうという配置が、後々の点前の都合であることは解る気がしますが、
表千家で茶碗を左寄り向こう、茶器を右手前に配置するのはなぜなのでしょうか。
薄茶と同様に盆の中心付近に茶碗、手前に茶器で良いような気がしてしまうのですが、薄茶で茶碗と茶器を運び出す時の配置(茶碗が左で茶器が右)と茶器を清める時の配置(茶器の手前に茶碗)の中間を採ったということでしょうか。
何か深い理由があるのかもしれません。

2.
(表千家) 服紗をさばき、茶器を清め、瓶掛手前左に置く。
(裏千家) 帛紗をさばき、茶器を清め、盆の向こう左寄りに置く。
(武者小路千家) 帛紗をさばき、茶器を清め、盆の左端に置く。

三千家盆点前

ここから、さらに三千家は異なる方向へ進みます。
表千家では茶器がお盆から飛び出しました。
お盆に対するこだわりがあまり無いのか、お盆の中で無理な点前になるくらいなら、お盆の外へということになったのか分かりませんが、
瓶掛を置けるだけの空間を想定しているわけですから、無理にお盆の中に納める必要がなかったのかもしれません。
一方、裏千家と武者小路千家では何とかお盆の中で完結させようとした苦労が伺えるように思います。

3.
(表千家) 服紗をさばき直して茶杓を清め、盆の上、右寄りに縦に置く。
(裏千家) 帛紗をさばき直して茶杓を清め、盆の手前右寄りの縁に置く。
(武者小路千家) 帛紗をさばき直して茶杓を清め、盆の右前横の縁に置く。

三千家盆点前

なぜか、茶杓を置く位置だけは三千家でほぼ同じようです。

4.
(表千家) 茶筅を茶器の右寄りに置き合わせる。
(裏千家) 茶筅を茶器の右横に置き合わせる。
(武者小路千家) 茶筅を盆の向こう端に置く。

三千家盆点前

表千家はお盆を飛び出しましたが、表千家、裏千家共に茶器が左で茶筅が右という薄茶の配置は維持したようです。
特に裏千家はこの配置に拘ったために、最初の置き合わせの配置が薄茶と異なる点を妥協したような気がいたします。
逆に武者小路千家は最初の置き合わせに拘ったために、清めた後の茶器の配置辺りから薄茶とは異なった新しい配置を考えなくてはならなくなったのではないでしょうか。

5.
(表千家) 茶碗を盆の手前へ寄せる。
(武者小路千家) 茶碗を手前端に移動させる。

三千家盆点前

薄茶と同様です。
裏千家では最初から茶碗がお茶を点てる位置にありますので、この所作は省略されているのだと思います。

6.
(表千家) 盆の上、茶杓の先の向こう側を「二」の字に清める。
(武者小路千家) 帛紗で盆の右端を「二」の字に清め、帛紗を腰につける。

表千家と武者小路千家では茶巾に置く場所を清めます。
裏千家でこの所作がないのは、薄茶の点前にそのような所作がないからでしょうか。

7.
(表千家) 茶巾を茶杓の向こう、清めた場所に置く。
(裏千家) 茶巾を盆中右横に置く。
(武者小路千家) 茶巾を盆の右端、清めた場所に置く。

三千家盆点前

8.
(表千家) 服紗を腰につけて、鉄瓶の蓋をしめる(女子は服紗で鉄瓶の蓋をしめてから腰につける)。
(裏千家) 鉄瓶の蓋をしめる。

茶筅とおじの前まで来ました。
各流派で道具の置き合わせる位置の違いがはっきり表れて興味深いです。
どこに重点を置いて考えられたかが良くわかる気がします。
表千家は茶器と茶筅がお盆を飛び出したこと以外は無理のない感じがします。
裏千家は薄茶点前を基本に小さな盆の中で完結しようとした苦労が伺えるように思えます。
武者小路千家は初めは薄茶点前に最も忠実だったはずが、点前が進むにつれて”略盆”ではなく新しい”盆”点前に進化しているように感じます。
この時点での配置は、まるで惑星の軌道図のようです。
どの点前が最も自然で美しいのか、好みの分かれるところだと思います。

この後、茶筅とおじをして、茶を点ててと進んでゆきますが、
瓶掛の扱いなど多少の違いはあるものの、基本的にはこの配置を維持し、
おしまいで最初の配置に戻るという流れですので、
この先は省略としたいと思います。

流派による作法の違い-略盆点前その1
流派による作法の違い-略盆点前その2
流派による作法の違い-略盆点前その3

(NHK水曜 F.M. 記)



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