日曜美術館で江戸時代前期の絵師、久隅守景(くすみ もりかげ)が紹介されていました。
狩野探幽の高弟であったが、何等かの理由で狩野派を離れ、その後どこに住んだのか、いつまで生きたのかも分かっていない謎の絵師だそうです。
代表作の国宝「納涼図屏風」は、家族で夕涼みをする慎ましやかな幸せを描いているとのことで、
江戸時代前期の歌人、木下長嘯子(きのしたちょうしょうし)の歌を題材にしたと考えられているそうです。
「夕顔の 咲ける軒端の 下涼み 男はててれ 女(め)はふたの物」
(ててれは襦袢あるいはふんどし、ふたの物は腰巻)
この歌を主題にした絵は、歌川豊広、葛飾北斎なども描いているそうですが、
いずれも夕顔棚に夕顔の花が咲いているのに対して、守景の納涼図は夕顔棚に花ではなく瓢箪が描かれており、
このことについて、東海大学非常勤講師の久野幸子さんは次のように解説されていました。
何か瓢箪に意味を込めて、意識して表現したと思う。
親子の非常に慎ましやかな団らんのひと時、清貧の暮らしとも言えるようなその姿と、
中国の瓢箪に関する故事を結びつけて、見る人に伝えたかったのではないか。
この中国の瓢箪に関する故事というのは、「論語」の
一箪の食、一瓢の飲、陋巷に在り
(いったんのし、いっぴょうのいん、ろうこうにあり)
のことで、孔子が、弟子で一番の秀才と言われた顔回(がんかい)を褒め称えて言った言葉だそうです。
一杯の飯と瓢のお椀一杯の飲み物だけで、路地裏の長屋住まいをしているという意味で、
普通はそのような暮らしはやりきれなくなって嘆いてしまうところを、顔回はそんな暮らしを気にせず、自分の楽しみを貫いていると。
これが「詫び」というものでしょうか、
千利休作の瓢花入 銘「顔回」もこの孔子の言葉からきているようです。
そう思うと、久隅守景の絵はどれも茶の湯的?な感じがいたします。
NHK日曜美術館「謎の田園画家のメッセージ 久隅守景」
http://www.nhk.or.jp/nichibi/weekly/2015/1025/index.html
e国宝 – 納涼図屏風
http://www.emuseum.jp/detail/100160/000/000?mode=simple&
永青文庫美術館 – 瓢花入 顔回
http://www.eiseibunko.com/collection/sadogu4.html
(NHK水曜 F.M. 記)